ショートショートバトル 5KBのゴングショー第154戦勝者

「『栄養ドリンク』」

岡谷

私は枕元に、栄養ドリンクを置いて眠る事にしている。

なぜなら私は、朝がとても弱いから。


ぐずぐずしているうちに二度寝してしまう。

そういう事が何度もあり、仕事に遅刻する事もしばしば。


『これではいけない』

そう思った私は考えた。


その結果。

手っ取り早くエネルギーを補給してすぐに動けるようにと、栄養ドリンクを枕元に置いて眠るという事になったのだ。


これはけっこう効果があった。

気分が悪くなる時もあるが、前より朝が苦痛ではなくなった。


そんな毎日を送るようになったある日。


いつもどおり家に帰ってきた私に、遠距離恋愛中の彼氏が交通事故にあって危篤状態に陥ったという連絡が入った。


頭を強く打っていて、かなり危ない状況らしい。


私はすぐにでも駆けつけたかったが、連絡があったのが夜遅く遠距離だという事もあり、すぐに行くのはどうしても無理だった。


とりあえず、朝一番で行く事を決め。

とりあえず、ベッドに入ったが全く眠れなかった。


そして朝。

私はベッドから飛び出した。


そんな時なのに。

私は無意識に栄養ドリンクを手にしていた。

いつもどおり蓋を開けて飲もうとしたその時、電話が鳴った。


「もう駄目かもしれません・・・・・・。早く来て下さい」


私は飲みかけの栄養ドリンクを置き、家を飛び出した。


『早く行かなきゃ。彼が死んでしまう』

移動している間の時間が、ものすごく長く感じられた。

私は泣き出してしまいそうな思いを抱えながら、彼の事を考えていた。


やっと病院に着いた私は、看護士達が驚くほどの速さで彼の病室に駆け込んだ。


そして・・・・・・。


驚いた。


『もう駄目かもしれない』と言われた彼が。

普通に起きていて、私を見て普通に、「やあ。来てくれたんだね」と笑ったから。

・・・・・・体は包帯だらけだったけれど。


医者もかなり驚いていたようだったけど、もう大丈夫と判断したのだろう。

私たちは病室で二人きりになった。


それから何時間か、私は彼と話をした。


『夢を見たんだ』

『何かね、ふわふわした僕が、君の所に行く夢』

『そしたら君はとても慌てててね』

『蓋を開けたドリンクを飲まないで飛び出して行っちゃったんだ』

『僕はもったいないと思ったのかな』

『そのドリンクを・・・・・・』


「そこで目が覚めたんだ」


『信じられない・・・・・・』

私はそういう顔をしていたのだろう。

そんな私を見て、彼は笑った。


「嘘じゃないよ」


私はそれから数日の間彼と過ごし、家に帰ってきた。


・・・・・・あの蓋を開けたまま放り出して来た栄養ドリンクは。


倒れて中身が全部こぼれていた。


それからしばらくして。

私は回復した彼と、結婚した。


心配した後遺症もなく、彼は毎日元気に仕事に行っている。

私は仕事を辞め、彼を送り出す毎日を過ごしている。


枕元に栄養ドリンクを置く事はなくなり。

私の朝は、眠い時には冷蔵庫にある栄養ドリンクを飲むという風に変わった。


飲む時に、私は考える。


あの時蓋を開けなければどうなっていたのか。

置いておく習慣がなければどうなっていたのか。


正直な所、何も分からない。


でも私は。


あの栄養ドリンクがこぼれていたのは。

きっと彼が飲んだからで・・・・・・。


彼が助かったのは、多分あのドリンクのおかげなのだろうと。

私は今もそう信じている。

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