ショートショートバトル 5KBのゴングショー第151戦勝者
志保龍彦
ようやく俺は監獄から出ることを許された。 監獄の中は最悪な場所だった。 生きて行くのにあそこほど過酷な場所は無い。 殴られ、蹴られ、叩かれ、罵られる。 大切な食い物も横取りされる。俺はいつも腹を空かせていた。 慈悲のかけらも無い世界。 容赦のかけらも無い世界。 仲間はおらず、常に一人。 苛められた。 殺されかけた。 自殺しようと思った。 痣だらけの体を見ても、誰も何も言ってくれない。 傷だらけの顔を見ても、ただ連中は笑うだけだ。 もう二度とあんな場所には戻りたくない。 「さあ、さっさとしろ」 俺は促されて、鉄格子をくぐった。 その瞬間、一気に世界が変わった気がした。 ようやく戻ってきたのだと実感することが出来た。 自然と涙まで溢れてきた。 本当に、嬉しかったんだ。 鉄格子の先にいた男が、ふと俺に気づいて言った。 「なんだオッサン、また戻ってきたのか。今度はついに人でも殺したか?」 囚人服を身に纏った男は呆れたような顔をしていた。 でも構わないんだ。ようやく、俺は外という監獄から逃げ出すことができたのだから。 |
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