ショートショートバトル 5KBのゴングショー第140戦勝者

「LAST MAN」

操觚

耳の奥に蝉がいるのではないかと思うくらいにうるさい。
それほどにも、騒げる彼らを俺はうらやましく感じる。
ここは薄暗いビルの一室。
室内は大地震の後のように、荒れ狂っていて足の踏み場もない。
ガラスが割れフレームだけになった窓からは空が見える。
どす黒い雲に覆われていて、空と呼ばれる部分はまったく見えない。
いつ雨が降り出してもおかしくはない。
俺は窓から離れ、椅子に座りタバコに火をつける。
この煙のせいで奴らに見つかって、殺されるなら本望だ。
タバコをくわえたまま机に置かれた初代ゲームボーイのような機械を手に取る。
どうやら俺は、人類最後の男になってしまったらしい。
俺が今、手にしている機械の画面に、そう表示されている。
この機械、構造はよくわからないが、どうやら地球人の生存者数を表示しているようだ。
機械には様々なボタンが付いていたが
どれを押そうとも表示されている言葉に変化はなかった。
奴らは俺がこの画面を見て苦しんでいるのを、眺めて楽しんでいるのかもしれない。
なぜそんな機械を持っているかと言うと、元は奴らが所持していたのを俺が奪い取ったのだ。
奴らというのは二ヶ月ほど前、突然現れた異星人のことだ。
やつらは突拍子もなく、俺たち人間を狩り始めた。
機械を手に入れたのは一週間前のことだが、その時は残り1000人と表示されていた。
そして、今こう表示されている。
<お前は人類最後の男だ。>
機械を机に置き、引き出しに入っている拳銃を取り出す。
以前奴ら遭遇したときには、こいつの世話になった。
しかし、そのおかげで最後の一人になってしまったわけだ。
思えばあそこで死んでいた方が、幸せだったかもしれない。
そんな考えをめぐらせながら、短くなったタバコを机でもみ消す。
もう残り少ないタバコに火をつける。
シリンダーには弾が二発しか入っていない。
「そろそろ潮時か...」

ガッシャーン
何かが割れる音が聞こえてきた。
どうやらこのビルに何者かが侵入してきたらしい。
突然の物音に、俺は慌てて机の陰に隠れた。
まだ火をつけて間もないタバコを足で踏みつける。
机の上の機械を手探りで取り、ポケットに滑り込ませた。
ゆっくり立ち上がり背中をぴたりと壁にくっつけて、ドアを睨みつけた。
俺が地球人最後の生き残りだ。
後悔が残らないように、最後の最後まであがいてやる。
明らかに「何か」がいることは確かだ。
それも人間以外の何かが...
硬いコンクリートの壁から、背中に冷たい感覚が伝わる。
足の震えが止まらない。
俺は生き物を殺すことに慣れていないのだ。
しかし、やらなければこちらがやられるだけだ。
一匹殺したところで、結果は変わらないだろう。
でも、殺されるなら奴らに一矢報いて、殺されようじゃないか。
俺は拳銃を握る手にぐっと力を込めた。
ドアのすりガラス越しに、俺より幾分小さいシルエットが写る。
人間と比べると頭が、異様に大きいのが、奴らだという事を表していた。
しばらくすると、ドアノブが音を立てずに回る。
周りの音がまったく耳に入ってこない。
先程までうるさかったセミの声は、いったいどこに行ってしまったんだ。
しばらくして、ドアがゆっくりと開いた。
俺は間髪入れず、銃弾を放つ。
そのでかい頭に一発打ち込んでやった。
相手は部屋の中に倒れこんだ。
「ハハッ、ざまーみやがれ。」
思わず口から言葉が漏れた。
俺は薄暗い中ゆっくりと倒れている未知の生物に近づく。
その生物のすぐ近くまで来たとき、俺は自分の目を疑った。
なぜなら、それは人間だった。 そのうえ少女のようだった。
頭には大きなバイク用ヘルメットをかぶっている。
「君、大丈夫か!!」俺はあわてて声をかけた。
しかし、少女に反応はなく。
見開いた目の中に生気は感じられない。
俺は意味がわからなかった。
さっき確認したが、機械には俺が人類最後の男と表示されていた。
俺のほかに人間がいるはずがない。
俺はポケットに入れていた機械を見た。
画面にはこう表示されていた。
<おまえは最後の人間だ。>
一瞬の間をおいて、俺は唐突に事態を把握した。
つまり俺は人類最後の男で、そこに倒れている彼女は人類最後の女だったわけだ。
「ハハ、ハハハハハハ」
自然と自分を卑下する笑いがこみ上げてきた。
これが笑わずにいられるわけがない。
セミの声がまた聞こえだし、俺の笑い声と交じり合う。
どす黒い雲からは、ついに大粒の雨が降り出した。
俺は人生最後のタバコに火をつけて一息つくと、こめかみに銃をあてた。


ドンッ

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