ショートショートバトル 5KBのゴングショー第139戦勝者

「新説・わらしべ長者」

黒金剛

 昔々、とある世界のとある国に、世界一の大富豪がいました。彼は世界中の富という富を独占し、人が望むほぼ全てのものを所有していました。
 けれども、そんな彼にもどうしても手に入らないものが、たった一つだけありました。彼はそのことを誰にも言わず、ひたすらたくさんの財産を費やしましたが、それでも望みが叶うことはありません。

空しく時間だけが過ぎていき、いつしか彼はすっかり年老いてしまいました。時間があまり残されていないことを悟った大富豪は、2人の息子を呼びつけ告げました。
「お前たち2人にワシの財産を半分ずつ分け与えよう」
 2人の息子は飛び上がるほど喜びました。しかし、富豪はそれを諌めるように続けます。
「ただし、交換条件がある」
年老いた父親の言葉に2人の息子は顔を見合わせました。
「ワシとの約束を守ることと交換で、遺産の譲渡を認める」

大富豪の出した交換条件は2つ。1つは、遺産をそれぞれ10等分して、そのうちの10分1を自分のものに、残りを自分たちよりも貧しいと思う9人に均等に与えること。
もう1つは、遺産を分け与えた相手に息子たちと同様の『約束』をさせること。

 2人の息子は不思議に思いましたが、たとえもらった遺産が10分の1でも、一国を買えるような価値があったので、2人ともその『約束』と遺産を交換しました。
 2人は早速、相続した財産の10分の1を自分たちよりも貧乏な人に分け与え、自分たちが父親としたのと同じ『約束』と財産とを交換しました。たとえ10分の1でも、息子たちより貧しい人にとっては充分な額だったので、彼らもそれを快く受け入れました。遺産をもらった貧しい人たちは、また同じように自分たちよりも貧しい人たちに遺産の10分の1を分け与え、同じ『約束』をさせました。

 こうして遺産はどんどん貧しい人たちへと分配されていき、間もなく大富豪の遺産だったものは世界中の人たちに行き渡りました。するとどうでしょう。世界中の人々が程よく豊かになったおかげで、世界から少しずつ争いが減っていくではありませんか。
やがて世界に平和が訪れ、大富豪は、この世でただ一つ、どうしても手に入れられなかったものを手にしたのでした。彼が永久の眠りについた時、その顔はとても満足そうだったと伝えられています。

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