ショートショートバトル 5KBのゴングショー第137戦勝者
智
「ねぇ、たまたま君が僕より2年早く生まれて、たまたま同じ大学の同じサークルに入って、たまたまお互いそ のとき想い人がいなくて、その後、たまたまお互いを好きになる確率ってどれくらいだと思う?」 ふと頭をよぎった途方も無い疑問を僕は馬鹿正直に彼女に尋ねた。 「ばかね、全部『たまたま』なんかじゃないのよ。お互い生まれたときから、ここで出会って、相思相愛にな るって決まってたのよ。わたし、あなたと始めて会ったとき何かピッときたのよね」 自信満々っといった顔で彼女が答えた。 僕はむっとしてしまった。 「なんだよそれ、この世の全部はあらかじめ決まっているってこと?それってなんだか…なんだか誰かの手 の上で踊らされているって感じがする。…何か嫌」 ぶう、と僕はほっぺを膨らませた。 「全部が決まってるなんて言ってないわ。それに、普通は『運命の出会い』とかって喜ぶものじゃないの?」 そういいながら彼女は僕の膨らんだほっぺをウリャーといいながらつぶそうする。 「喜ばないですっ。…少なくとも僕は。何か、運命って一言で片付けられちゃうと、今にいたるまでの僕の選 択とか努力とか葛藤とか、全部意味がなかったみたいで、嫌。それに…」 「それに?何?」 「なんでもないですっ…」 こらこら、拗ねないのと言って彼女は僕の頭をポンポンっとたたいて、そのまま手を頭にのせた。 そして僕の顔を覗き込もうとする。 「なんでもないったら…」 「なんでもない人は、ベットの上でそっぽ向いて体育座りなんかしないの。ほらほら、言いたいことがあっら ら言っちゃいなー。」 そう言いながら今度は頭をなでて来た。 また子ども扱いする…。もう怒ったぞ。全部言ってやる!! 「それに…、僕は運命なんて一言で片付けられないくらい君のことが好きなの!」 僕は下を向きうずくまる。僕の顔はそりゃあもう真っ赤になってるはずだ。もう知らないっ!!! 「…私もよ。」 その声が聞こえたとき、もう僕は抱きしめられていた。 「うれしいわ。ありがとう」 そう言うともう一度ギュッとされた。 「…私、あなたの選択とか努力とか葛藤とか、ある程度は分かっているつもりだけど?その辺を含めてあなたを好きになったの。第一印象だけで運命の相手を決めるほどそそっかしくないわ。」 「…なんだよ、さっきはピッときた、とか言ってたのに。」 「もう…、拗ねないの。かわいくないぞ。」 「かわいくなくていいです。」 「ほら、顔上げてよ。かわいい顔を見せて。」 「かわいくなんかないったら…」 「こら、拗ねててもかわいいぞ。」 「…。(また言ってること変わってるし、ってか話きいてないし。)」 そのままにしてるのも癪なので、僕は顔を上げた。僕の顔を包み込む彼女の腕。 しょうがないわね、彼女はそう言うと、そっと僕の頬に唇をおとした。 そしてなんでもお見とおしだぞっていう顔をする。 彼女には敵わない。 |
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