ショートショートバトル 5KBのゴングショー第134戦勝者

「震度0だがマグニチュード7」

中原一機

「世の中は誰の力で動いていると思う?どっかの大国の大統領か?それを陰から操るどっかの組織か?」
博人は酔いが混じった、少し荒い口調で聞いた。
いつも聞き手に回る光男はたまったもんじゃないが、後輩である手前、付き合わざるを得ない。
活気付いた居酒屋なので、こちらの会話を周りに聞かれる心配が少ないのが幸いだ。
「さあ・・・マフィアとかじゃないですか?」
すると博人はひと笑いした後、馬鹿にしたように言った。
「おいおい、マフィアって・・・お前ゴッドファーザーとか見過ぎ!」
光男はゴッドファーザーを見たことは一度も無かった
「あれはいい映画だったな・・・アル・パチーノがいい演技してたんだ・・・アル・パチーノと言えば・・・」
「はあ・・・」
世の中を動かしているのは誰なんだろう?と少しだけ思いながら、光男は博人の映画話にしばらく付き合わされた。夢見るような目で映画を熱く語る博人は実に気持ちよさそうだ。
「・・・でさあ、結局あのラストはどうかと思うんだよ。あれは監督が悪いのか、脚本が悪いのか」
「先輩、世の中を動かすとかいう話はどうなったんですか?」
「ん?ああ、そんな話してたっけ?おい、お前が悪いんだぞ!映画話なんか振るからだ!」
別に振ってないし、寧ろ自分から言い出したのに・・・光男は博人に聞こえないように軽く舌打ちをした。
博人は再びビールを手に取り、口に流し込むと、目を閉じた。
「世の中は誰が動かしてるかそれは・・・」
「それは・・・?」
「俺だ!」
その時ばかりは光男は聞かなきゃよかったと本気で思った。
あまりにも下らな過ぎる。
光男の空気を察したのか、博人は慌てて言葉を繋げた。
「正確には、“俺ら”だ。お前、一人の力だけが世界を動かしてきたと思うか?違うだろ。世界は偉人だけで創られてきたわけじゃない。いや、寧ろ逆に偉人は何もしてない。やってきたのは俺ら般ピーだ。あのビルも作ったのは俺ら般ピーだ。偉い奴は命令するだけで、あのビルの掃除すらしていない。俺の言ってることが分かるか?」
「ハァ・・・」
「俺らは一人一人はなあ、確かに小さ過ぎるよ。何も出来ない。誰にも知られてない。でも、そんな奴がこの地球の殆どに生息してるんだぜ?そんでもって、その殆どの行動が世界を創っていくんだ!偉い奴らなんか一握りしかいないから何も出来ない。世界も創れない。俺の言わんとしてること、分かるか?俺らは凄いんだよ、俺らは凄いんだー!!」
「博人さん、あまり五月蝿くすると、怒られますって・・・」
「ちくしょー!俺らは凄いんだ!見た目じゃ何も起こってないけど、世界は今も変わってるんだーーー!」
喚き出した博人を囲む視線が痛々しくて、光男は死にたくなった。
店から追い出される前に、光男は勘定を済ませると、喚く博人を無理矢理引っ張って、外に出た。
「どうだーー!俺は今も、世界を創っている!確かに世界は変わっているんだ!」
光男は思った。
(あんたが創ってるのは、俺のストレスだけだよ)

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