ショートショートバトル 5KBのゴングショー第133戦勝者

「自己中」

ピエロ


『好きだよ』  『だから?』 

『それだけ』  『……それだけで呼び出したの?』

『うん』    『オレは明日の引っ越しの準備で忙しいのに……』

『だからだよ』  『ふぅん』

『女の一世一代の告白を「ふぅん」の一言で終わりにするの?』  『じゃあ何して欲しいのさ』  

『メルアド教えて』  『何で?』
  
『好きな人と連絡を取りたいと思うのは普通でしょ?』  『オレ、ケータイ持ってないよ』

『今時の中学生は普通持ってるよ』  『悪いけどオレの親は普通じゃないんで』  

『嘘?』  『本気』

『じゃあ向こうの電話番号』  『それも決まってない。住所ならわかるけど』

『それは結構です。手紙書くの面倒だし』  『……アンタ本当にオレのこと好きなの?』

『うん。チャッピーの次に』  『チャッピー?』

『私の犬』  『オレは犬以下か?』

『でも世界で一番好きな人だよ』  『犬以下だけど?』

『犬以下だけど』  『……』

『じゃあさ、夏休みになったらコッチに来てよ』  『普通、アンタが行くんじゃないか?』

『メンドウ。それに交通費かかるし』  『オレの交通費は考えないのか?』

『うん』  『ハァ……。アンタって自己中だよね』

『よく言われる』  『……何でオレが好きなの?』

『なんとなく』  『オイオイ』

『でも人を好きになる理由ってそんなんじゃない?無駄な理屈を並べるよりも』  『確かにね』

『だから好き。私はアナタが好き』  『アンタはオレに何を言って欲しいの?』

『別に。私はただ自分の気持ちを言っただけ』  『自己中』

『わかってますよ。でも伝えたかったんだ』  『そう。じゃあオレは帰るね』

『……うん。さよなら』  『「またね」の間違いじゃなくて?』

『…………………………』  『帰りの交通費代はアンタが払ってよ』

『イヤ』  『あっそ』

『またね』  『またね』








あれから何ヶ月たったのだろう。蝉は鳴き続け太陽は容赦なく体を照らす。
地球温暖化の所為か例年よりも更に暑く感じる。これは北極や南極の氷が溶けても可笑しくないだろう。

少年は空を見上げた。憎らしいほど空は青く澄んでいて、太陽を遮る雲がない。
気分を涼しくさせるという風鈴ですら、この暑さに意味をなくしてしまうのではないか。

少年は見上げていた顔を前に戻す。



「約束通り来たよ。交通費代がシャレにならなかったけどね」


少年の目の前にあるのは、石。
先客がいたのか綺麗な花と線香が燃え尽きたと思われる灰がある。


「アンタは本気で帰りの交通費代を払う気はないんだね」


片手に持っていた花を適当に供え水を入れた。
父親から勝手に拝借したジッポで線香に火をつける。
白い煙が空へと上っていった。



「アンタって本当に自己中だよね」


線香の香りが鼻をかすめた。

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