ショートショートバトル 5KBのゴングショー第130戦勝者

「人間の定義」

ちづ

暖かい昼下がり。日当たりのいい縁側。
秋も近くなり暑さは和らぎ、しかし厳しい冬の寒さもまだまだ遠いといった
何ともいえない心地よさの中で私は考え事をしている。
どうせならこのまま眠ってしまえば更なる心地よさが待っているだろうが
頭の中は妙にクリアになって眠るといった感じではない。

先ほどから私が考えていること、それは
『人間か人間で無いかという定義は何だろう。』
ということだ。

《痛みを感じる?》
それならば全てのものは傷つけられたら痛みを感じるだろう。
もしかすると、今いる縁側の木でさえも切られたときには痛みを感じていたかもしれない。
切られる時に叫び声でも上げたりしたら痛みを感じているのだと分かるのだが
私たちには分からない言葉で叫んでいるのという可能性もある。
というより、叫ばれては恐ろしいが…。

《食物を必要とする?》
生きていくためには動物にだって何にだって食物は必要だろう。
種族によって食べるものが違うが、食べているということには変わりは無い。

《自分で考え行動することができる?》
これは自分でも良さそうだとは思ったが、途中で致命的な欠点に気がついた。
目の前にいるふさふさな毛皮を持ち、はちきれんばかりに尻尾を振っている
犬という種族だって人間ではないが、この定義を満たしている事に気がついたのだ。
餌を前にしてもじっと我慢しているのは母さんからの命令の『待て』を聞いているためだろう。
命令を無視して食べれば怒られるということを分かっているから動かない。
私には全く懐いていないので、見るたびに吠えてくる可愛げの無いやつだが今は餌が最優先らしい。
先ほどまでは私を見て吠えていたが今では餌の前で大人しく母さんからの許可を待っている。
単細胞ではあるが、きちんと自分で考えて行動している。

先ほどから色々な定義と思えるものが浮かぶたびに検証してみたが、どれも正解とは言えそうも無い。
今の定義を認めるならば、私は他の動物たちすらも人間と言っていることと同じだ。
もしかしたら、目の前で餌を美味しそうに頬張っている犬自身は
自分の事を人間だと思っていたりするのかもしれないが、それはそれで面白いかもしれない。
まぁ、やつが自分で自分を人間だと思っていても困ることはない。
とりあえず、私が人間であるということを私が理解していれば十分だろう。



あぁ、さっきから考えてばかりだったのでお腹が減ってきた…。
母さんに言って何か作ってもらおうか。

「にゃ〜っ」

「はいはい、分かりましたよ。お腹がすいたのね。今から用意するわ。」


[前の殿堂作品][殿堂作品ランダムリンク][次の殿堂作品]


[HOME][小説の部屋][感想掲示板][リンクの小部屋][掲示板]