ショートショートバトル 5KBのゴングショー第129戦勝者

「『冗談なのに・・・・・・』」

岡谷

昔、私の同僚に、『冗談まったくが通じない人』がいたわ。

どれくらい通じないのかって?

そうねぇ。

『本当に冗談がまったく通じない人』としか、表現できないわ。


軽く考えてるでしょう?


『何事も真剣にやってしまう人』とか、そんなカンジで。

そんなんじゃないのよねぇ・・・・・・。

本当にそんなんじゃないのよ・・・・・・。


いつだったかしら?

誰かが言ったのよね。

その人、仕事出来なくてね。

上司が怒鳴ったのよ。

「契約が取れるまで、戻ってくるな!!!」って。

・・・・・・そしたら。

契約が取れるまでの一ヶ月間、本当に戻って来なかったわ。


またある時はね。

「お前はみたいな役立たず、死んでしまえ」って。

・・・・・・そしたら。

ビルの屋上から本当に飛び降りちゃって。

あの時は大変だったわよ。


まあ、言った方も、後悔したんでしょうね。

「アイツが死んだなんて・・・・・・。戻って来てくれるのなら、謝りたい」

・・・・・・そしたら。

次の日、普通に出社してくるんだもの。


あの時は、驚いたわぁ。

上司はその後、精神病院に入っちゃったけど。


まあ、そんな人だったんだけど。

私はその人に興味を持っちゃってね。


付き合い始めちゃったの。

一緒に暮らすようになって、結婚もして。


まあ、それはいいのよ。

「野球チームが出来るくらい子どもが欲しい」とか、そういうコトは言わないようには注意しなきゃならなかったけど(笑)

あの人は優しくてね。

幸せだったわ。


けど、私も年を重ねるごとに気弱になっちゃって。

言っちゃったのよね。

「私より、一日でいいから、長生きしてね」って。

あの人は微笑んで言ったわ。

「絶対君より、一日長く生きる」って。


・・・・・・それを言ってから、もうずいぶんたったわねぇ。


知らなかったのよね、私。


あの人が、あまり仕事が出来ない人だったってのは、知ってたんだけど。

でも、あのコトまでは知らなかったのよね。


「おまえは人の3倍くらいは頑張らなきゃ、終わらないな」って昔言われてたってコト。


私はあの人に介護されながら、今生きているわ。


あの人が微笑んで言うの。


「絶対君より一日長く生きる」って。

あの言葉のせいかしら?

あの人は確かに、人の3倍頑張ってると思うわ。


だって私、明日『279歳』の誕生日を、迎えるんだもの。


本当に『冗談が通じない人』なんだから・・・・・・。

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