ショートショートバトル 5KBのゴングショー第127戦勝者

「『愛の指輪』」

岡谷

「あんた。誰かに恋してるね」私たちは今、街角の占い師の所にいた。
とてもよく当たるという評判を聞いて、私たちはやってきた。私は別に、観てもらいたいコトなどなかったのだけど。けど、同僚で親友の、ユミカは違った。自分の悩みを話し、その占い師の答えを、真剣な表情で聞いていた。『ユミカが恋してる』当たっている、と思った。ユミカに好きな人がいるのは、知っていた。それが同僚の、マサヒコくんだってコトも。けど私は、その恋が叶うとはとても思えなかった。マサヒコくんには、婚約者がいたのだから。『もうすぐ結婚するんですよ』そう言ってうれしそうに話してたマサヒコくんの姿を見ていると、とてもユミカの恋が叶うとは思えなかった。私は何度も、そうユミカに言ったけど。ユミカはどうしても諦められないみたいだった。そんな時に、あの占い師のコトを聞いた。
そんなによく当たる占い師ならもしかして、ユミカを諦めさせるコトだって、出来るかと思ったから。私は期待してた。占い師が、ユミカの恋を諦めさせる言葉を言うコトを。なのに・・・。占い師は私の期待を、見事に裏切ってくれた。「その恋は叶うであろう。ただしそれには条件がある。あんたは何でもする覚悟はあるかい?」「何でもするわ! あの人を手に入れられるのなら、何をしてもいいわ!」『止めなよ。マサヒコくんには・・・・・・』私はそう言おうとしたけど、言うコトは出来なかった。ユミカにはもう、その占い師の言葉しか聞こえていなかったのが分かったから。占い師は、ユミカに一つの指輪を差し出した。『大き過ぎるわ』そう思った。ユミカも薬指にその指輪をはめてみていたけど、大きすぎて指輪はくるくると回っていた。「大き過ぎるわ」ユミカもそういって、指輪を外そうとした。私も、あの指輪がユミカに合うとは思えなかったし、そのまま外してくれるのを願ったのだけど・・・。けど、外そうとしたユミカに、占い師は言った。「おやおや。何でもするんじゃないのかい?」その言葉を聞いて、ユミカはの手は止まった。占い師は、言葉を続けた。「その指輪は、『愛の指輪』 その指輪がピッタリになった時、あんたは想う相手に愛されるようになるんだよ」占い師は更に続けた。「本当に何でもするなら、その指輪がピッタリになるように、するんだね」そう言って、不気味な笑いを浮かべたのだった。怖くなった私は、ユミカを引っ張るようにして、その場から離れた。私はユミカに言った。「あんなの信じちゃダメ。あんな怖い・・・」「そうね・・・」だけど、ユミカの真剣そのもののまなざしで、その指輪を見ていた。私は、ただイヤな感じを覚えていた・・・。・・・そして予感は的中した。ユミカは明らかに、オカシクなっていたのだ。私はただ見ているしかなかった。ユミカが今まで、考えられなかったくらい、食べ始めたのを。『あの指輪が、ピッタリになれば、恋が叶う』その思いが、ユミカを動かしているのだろうか。ユミカは食べた。指輪がピッタリになるように。『太れば指輪はピッタリになる』指輪が合うようにするには、太るしかない。ユミカは太るために、食べるようになった。太るため、食べ続けるユミカ。止めようとしても、止められない私。ユミカはどんどん太っていった。ただ太るだけなら、ユミカを止められたかもしれない。けど、ユミカの指が指輪のサイズに近づくにつれて、マサヒコくんがユミカに近づいてくるようになった。ユミカが太る。『残業一緒に手伝ってくれませんか?』また太る。『一緒に食事でも行きませんか?』太る。『今度どこかへ遊びに行きませんか?』
ユミカの指が指輪のサイズに近づくにつれて、マサヒコくんとの距離も近づいている。私ももうそれに気がついていた。そしてもう、ユミカを止めるコトは、出来なくなっていた。ユミカは太り続け、マサヒコくんも、ユミカに近づいてくる。・・・けれど、マサヒコくんはまだ婚約を破棄しようとはしなかった。無理もない。
マサヒコくんは、本当はユミカを愛していないのだから。ユミカがそれだけ急いで太ろうとも。・・・指輪には、まだ隙間が。私はそれを、痛痛しい思いで見ていた・・・。そして、マサヒコくんの結婚前夜の日を迎えた。その夜、私は久し振りに、ユミカとゆっくり話をした。もう、ユミカには前の面影はない。愛する人のために太り続けた、肉の塊のような女が、そこにいるだけだだ。けれど指輪は、無情にもユミカの指でくるくる回っていた。「・・・もう、止めようよ」私はユミカに言った。「その指輪にもし、力があったとしても、もう・・・」私は続けた。「マサヒコくんは、結婚しちゃうんだよ。もう間に合わないじゃない」ユミカはただうつむいて、私の話を聞いていた。「もう・・・。諦めようよ・・・」「そうね・・・」ユミカは私の言葉に答えるようにそうつぶやいた。「だけど・・・」ユミカは私に言った。「もう一つだけ、試したいコトがあるの。それでも無理なら、諦めるわ・・・」・・・そしてそれが、生きているユミカとの、最後の別れになった。『ユミカが死んだ』出勤して、私はすぐにそれを聞いた。私はすぐに会社を飛び出した。そして、亡くなったという場所へ急いだ。『ユミカ・・・。どうして・・・』ユミカは、海に身投げしていた。私はなぜ、ユミカがそんなコトをしたのか、分からなかった。だけど・・・。その場所に着いた時、私は全てを理解した。
ユミカの遺体は、シートをかけられ、横たわっていた。白いタキシードを着たマサヒコくんが、泣いていた。
「どうしてこんなコトに。愛していたのに。愛していたのに」結婚式を放棄してかけつけたであろうマサヒコくんが、遺体にすがって泣き続けていた。・・・私はただ見ていた。

シートの隙間から見える、ユミカの指を。水を吸って膨れ上がり、あの指輪がピッタリになった、ユミカの指を。

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