ショートショートバトル 5KBのゴングショー第119戦勝者

「パワーアップきのこ」

まど

「うぉーい、来たぞ。生きてるか?」
俺は友人の住むボロアパートの二階、「森尾」と書かれた表札の部屋のドアを雑にドンドンとノックした。
どうせ返事はなくとも入るつもりだが。
旅行中だろうがなんだろうが、この部屋に鍵がかかっているところを俺は見たことがなかった。
・・・やはり返事はなかった。
「入るぞ。」
やはり鍵のかかっていないドアを開け、6畳一間の部屋に土足で上がる。
このゴミだらけの部屋だ。靴を脱ぐ奴のほうがどうかしてる。
「お、礼二。」
ふいに横から男の声がして、俺はびびって声のほうを見た。
森尾の奴が押入れの方にあぐらをかいたまま、顔だけこちらを見ていた。
「おい、いたのかよ。びびったじゃねえか。」
「俺んちだぞここは。」
森尾は押入れのほうへ目を戻した。
「こいつを返しにきたんだよ。」
俺は奴から借りていた、ちょっと人には言えない本と、とても人には見せられないビデオをかばんから
とりだし、ドサドサとゴミの上に置いた。
「おい、さっきから何見てんだよ。」
放心したように部屋の隅にしゃがむ森尾の後姿がやけに気にかかった。
「礼二、これなんだかわかるか・・・・」
森尾に言われて汚ねえ押入れの奥をのぞく。
「・・・・!」
そこには異様であり、しかし目に覚えのある物体が植立していた。
全体的にまるっこいその姿、大きな白い水玉模様のついた緑のカサ、とぼけた目のような黒い点が2つ。
「こ・・・これは・・・!」
「だろ・・・・?」
「あの有名な幻のキノコか・・・?」
「やっぱりそう思うか?なんでかしらねえが、朝起きたらゴミの上に生えてたんだよ。」
どこからどう見ても、僕たちが幼い頃から慣れ親しんできたアレにしか見えない。
「本物か・・・?」
「本物だろ・・・・」
「やっぱこれ食ったら1UPするのかな・・・」
おれがこう言うと、部屋に静寂が生まれた。
・・・・・・
「・・・・いやいやいや、あれはゲームの世界だから・・・。現実では・・・・・」
「現実では・・・・どうなるのかな・・・・」
命がもうひとつあったらどんなにいいだろう。きっと森尾も同じことを考えているだろう。
俺たちはあのゲームの主人公のように冒険などしないのだから、そうそう簡単に命を失うことはない。
しかし・・・・
「・・・食ってみるか・・・」
自分の口からこんな言葉が出るなんて、自分でも信じられなかった。
俺は聖者でも坊さんでもない。死ぬのはいやだ。
いつのまにか俺はきのこに手をかけていた。
「俺はいい。命がふたつあったってめんどくせえだけだ。」
森尾がこう言った。そうだろう。奴はそんなやつだ。
きのこの根元をつかんで持ち上げると、以外にすっと軽くそれは抜けた。
「キノコは裂いてみて縦に裂けたら食えるらしいぞ。」
森尾が言う。なんでそんな知識があるのか。
でもまあ、とりあえずこのキノコは縦に裂けるから、食えることは間違いないらしい。
「・・・・調理したほうがいいのかな・・・」
「火を通すと効果が消えるかもしれねぇぞ。」
「そうだな。」
俺ははやる気持ちをおさえつつ、きのこのカサに口を近づけ、かぶりついた。
「味は、ふつうのきのこだな。」
もぐもぐと生のキノコを咀嚼して飲み込んだ。
二口目を噛みながら、俺の頭に小さな疑問がうかんだ。
・・・・ほんとに大丈夫なのかコレ・・・
実際に1UPするキノコなんてあるものなのか・・・・
森尾の言うことを鵜呑みにしたが、本当に信用できるのか・・・
「森尾、なあ・・・・・・うっ!?」
森尾に話しかけようとしたが、その言葉は途中で途切れてしまった。
脳天になにかぶつかったのだ。
天井のネズミに金ダライでも落とされたのかと思ったが、違った。
「れ・・・礼二・・・お前、でかくなってんぞ・・・」
そう、頭にぶつかったのは部屋の天井だったのだ。
明らかに周りの物全てが小さく見える。床がミシミシときしむ。
見下ろすと森尾のぽかんとほうけた顔と目が合った。
「どういうことだ・・・なあ・・・森尾、ちょっとそれ、きのこ調べてみろ。」
呆けていた森尾が落ちてたきのこを拾い上げた。そして口を開いた。
「あ・・・よく見たら・・・このきのこ、青カビ生えてやがる・・!本当は赤いきのこだ・・・」
だ、そうだ。
・・・・・・なるほど・・・パワーアップはパワーアップでも、こっちだったのか・・・
つーか、菌であるきのこにカビなんて生えるものなのか・・・?
にしても不覚だった・・・
「どうしよう・・・こんな、ラジャ・ライオンとか
 アンドレ・ザ・ジャイアントよりもでかい姿で外歩けねえよ・・・!
 なんとかしてくれよ・・・!森尾っ!」
「そんなこと言われたってよ・・・・・・・あっ」
森尾は気付いたように手を打った。
「何か思いついたのか・・・?」
俺の言葉を無視して森尾は立ち上がり、足元のゴミを蹴り除けながら、台所へ向かった。
「おい、森尾・・・」
「礼二、たしかあのきのこの効果って、ダメージを受けたら元にもどるんだったよな。」
森尾が部屋に戻ってきた。その手には包丁を持って。
まさか・・・・・・ちょ・・・待っ・・・・・・・・・



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