ショートショートバトル 5KBのゴングショー第118戦勝者

「DELIGHT」

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そういえば幼稚園のころ飼っていたウサギが死んだんだ。
幼馴染の女の子が何かを言っていた気がする。なんだったかな・・・


久しぶりに実家に帰る。今日から大学は春休み。

一人で都会にいる僕は、懐かしの両親に会うために新幹線に乗っていた。

新幹線で片道2時間半。到着までは、まだまだ時間がかかりそうなので一眠りすることにした。


「やはり出かける前にどこかに預けるべきだったかな」
「でも2泊よ。餌もちゃんと置いていったし、死んじゃうなんて普通考えないわよ」


 目を覚ますと丁度ホームに着いたところだった。両親には出迎えはいらないといってあるが、

…ほら、やっぱりいた。子供の言うことを「はいわかりました」と聞くほど物分かりのいい親ではない。

仕方ないので両親との挨拶を交わしたあと、親の車で実家に帰ることにした。


「ねえ、なんでウサギさん死んじゃったの?」
「それがお母さんにもわからないのよ」


 家は以前と変わっていなかった。しかもうれしいことに僕の部屋もそのままで何一つ変わっていない。

ホコリもたまっていないということは母が誰もいない部屋を毎日掃除してくれていたのだろう。

だがやはり自分の部屋は自分で掃除したい。ということで初日の僕の日程は大掃除に決まった。

高校時代に使った教科書や参考書をまとめ、押し入れに入れる。

しかし押し入れの中にも物が入っているので、それらをほこりまみれになりながら取り出していく。

辛い作業だったが押し入れの中からはいろいろな掘り出し物が見つかり退屈はしなかった。

赤い光の出るライトを見つけたのはそのときだった。掘り出し物の中で唯一見覚えのない代物。

両親に尋ねても知らないという。試しに壁に向けて光を放ってみる。普通に赤い円が広がった。

その時赤い円の中に一匹の虫が入った。・・・・・・消えた。


「ねえ、ウサギさん死んじゃったってホント?かわいそー」
「うん。でもなんで死んじゃったかわからないんだ」


今確かに虫が…。いやそんなはずはない。疲れているだけだ。そうに決まっている。

だからあの蝶に光を当てても……消えた。やはり消えた。

ということはこのライトの光を浴びた生物は消えてしまうのか?もしかして…人間も…。

…いけないいけない、僕は何を考えているんだ。疲れているのだろうか。その日、僕は早めに寝ることにした。

夢の中でも僕はあのライトのことしか考えられなかった。まるで封印の解かれた魔力にひかれたかのように。


「月にはねウサギさんがいっぱい、いっぱいいるんだよ。
  それでねすごい仲良く暮らしてるんだよ」


朝、僕の頭の中は完全にライトの魔力に支配されていた。

『自分に関係ない人ならいいじゃねえか。使ってみろよ』頭の中でその言葉が何度も繰り返される。

そして僕は誘導されるように外に出た。

最初に目に入ったのは一人の老人だった。僕は本能に逆らえず光を向けた。

老人はだんだん薄くなりながら消えていった。その過程の老人の不安と疑念に歪んだ顔に僕は快感を感じていた。

《これはまずい。》

頭の中ではわかっていても体が言うことを聞かない。続け様に通りを歩いていたカップルと4人家族を消した。

すでに罪悪感は感じなくなっていた。その後10分ほど歩き回って数人消して家に戻った。


「今地球にいるウサギさんはね、たった1羽で地球にやってきたの。
だからホントはウサギさんは空も飛べるのよ」


 3人で一緒に夕食をとった。やはり両親は消す気になれない。今日のところはもう寝よう。

また人を消すのは明日でもいい。ただ、いくら消しても不思議と捕まるという不安はなかった。

この方法なら絶対に証拠は残らない。僕は完全に光のとりこになっていた。 翌日も朝から人を消していった。

気を付けることは悟られないように一ヶ所で集中的に消さないこと。テレビでは謎の怪事件として放送されていた。

両親は恐がっていたので、僕も一応恐がっているふりをした。

それから1週間後。明らかに欲は強まっている。1日に消す人の数はすでに50を越えている。

その日の夕食時、僕の精神に魔力が再び囁きかけてきた。

『消せ。今すぐ消せ』

「ダメだ!」

と思ったときには僕はすでにライトを手にしていた。そして一瞬生まれていた否定の精神はすでにない。

僕は自分の欲を満たすために両親を消した。大量の快感を浴びながら僕は眠りについた。

朝起きると家の中は静かだった。そういえば両親は僕が昨日消したんだった。それにしても静かだな。

いつもはうるさい親の声だが、ないと逆に虚無感に襲われ、いつもの家もなんとなく居心地が悪い。僕は早々に家をでた。

何人消してもどこか気分がさえない。心のどこかで両親を消したことを非難していたのかもしれない。

夜、家に帰っても誰もいない。僕はすぐに布団に入った。

それから同じような一週間が過ぎた。


「ウサギさんは月では友達と一緒だったの。だから孤独にはなれてない。
 みんなで支え合って生きて来たから一羽だと不安になるの」
「それでウサギは淋しいと死んじゃうの?」
「そうなの」


 一週間後の朝、僕は狂ってしまった。依然として近所は静まりかえっている。

僕は孤独に耐えられなくなっていた。

きっとあの日のウサギも同じ気持ちだったのだろう。

誰もいないことの寂しさ、それはウサギでも人でも変わらない。

だって人は一人で生きていけないんだから。でもそれは失われるまで気付かない。

だって周りに人がいることが当たり前だと思っているから。

もう限界だ、この孤独には耐えられない。それから数秒後。僕の体を赤い光が覆った。

作者のサイト:http://www14.plala.or.jp/hom231/

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