ショートショートバトル 5KBのゴングショー第109戦勝者

「『裏』島太郎」

黒金剛

 「えーと、集合場所は確かここだったな」
 俺は周囲を見回す。視界に飛び込んでくるのは一面の砂。右も砂。左も砂。
「ったく、めんどくせぇなぁ……」
 打ち寄せるさざ波に体を濡らしながら、俺は先程のことを思い出していた。


 
「おい、姫がお呼びだぞ」
 不意に訪れた主人からの呼び出し。今日は非番のはずなのに。
「全くあのワガママ姫はこれだから困るぜ」
 小声でぶつくさ愚痴りながら、俺は列を為して連なる窓の外を見た。いつもと一緒。変わり映えのない一面の蒼に思わずため息が出る。
 この建物の無駄な広さにも辟易するな。もちろん俺の歩く速度がすこぶる遅いせいもあるが。まぁ王宮なので仕方ない。
 何を隠そう(別に隠すほどのことではないが)、俺の主人はこの国の支配者なのだ。俺は彼女に仕える従者の一人。
 やっとのことで辿り着いた大きな扉の向こうでは、俺の主人が玉座にふんぞり返っていた。
「休日だと言うのに悪いですね」
「いえ、主命とあらば何時如何なる時にも馳せ参じるのが私の務めでございます(わかってんなら呼ぶなっつうの!!)」
 彼女の玉座の後ろには巨大なモニターが据えられている。その中に映し出されているのは一人の男。
 ああ、なるほど。俺は思わず心の中で呟いていた。
(また、惚れたな)
 このお姫様はどうにも惚れっぽい。恋愛事に関してはちと衝動的に過ぎる。もう若くないってのに。
 彼女の声が朗々と響く。
「今日、貴方に来てもらったのは他でもありません」
 ──休日返上でアンタの恋路の手助けか。
「彼と私の縁を結ぶための作戦に参加して欲しいのです」
 やっぱり。
 まぁ、ヒマだったのは俺だけだからな。白羽の矢が当たったのだろうが……。
 俺は改めてモニターの男をまじまじと見つめた。
 貧相な身なり。手にした粗末な釣竿。どこからどう見てもイイ男には見えん。
 彼女の男の好みは少々変っているのだ。
「ああ、何て素敵なのかしら」
 画面に見入って悦に浸ってる。
 ダメだ、こりゃ。完全に陶酔モードだな。これはもはや想いを遂げるまで事は済みそうにない。
「それで、私は何をすれば良いのでしょう」
 こうなったら、さっさと終わらせて一杯やろう。情けないことだが、俺はこの手の仕事には慣れているんだ。毎度のことだからな。
「これを御覧なさい」
 モニターの映像が切り替わる。そこには数人の子どもたちの姿。
「……彼らは?」
「彼らは私が事前に手配しておいた現地協力者です。貴方は彼らと協力してこの作戦を遂行して欲しいのです」  
 満面に疑問符を浮かべる俺に、主人は説明を始めた。
「貴方は彼らと合流した後、浜辺でいじめられてもらいます」
「は?」
 思わず飛び出した間の抜けた声。だが、当然だろう。俺が子どもにいじめられることと男の心をつかむことが、どう繋がるのか、にわかには理解できなかったからな。
「あの……お聞きしても宜しいでしょうか?」
「何ですか?」
 明快な答えをもらわないことには、いくら俺だって納得いかない。
「私がこの子たちに虐げられることが、どうしてこの貧相な……いえ、この眉目秀麗な御仁の御心を捕まえるための作戦になるのですか?」
 俺の問いに姫君は満足げに頷いた。喋りたくて仕方なかったという雰囲気だ。
「この数日、私はこの御方に監視をつけ、その行動パターンや性格、家族構成から嗜好に至るまで全てを徹底的に調べ上げました。その結果、この方は困っている者を見ると放っておけない大変優しい心根の持ち主だということが分かったのです」
 それって立派なストーカーってヤツじゃねぇか。いくら一国の姫君とは言え、やって良いことと悪いことがある。
 顔をしかめる俺を無視して彼女を続ける。
「心優しい彼のことです。いじめられている貴方を見て、絶対に助けようとするでしょう。そうしたら貴方は助けて頂いた御礼と称して、彼をここまで連れてきて欲しいのです」
 なるほど。その後の展開は簡単に読める。
 ホームグラウンドに引っ張り込んだ後は、豪勢なもてなしと時間感覚を狂わせることで強引に引き止めちまうというわけか。
 相変わらずやり方がエゲツないっつうか、何つうか。んで結局、飽きたらポイ、だからな。
「では、行って参ります」
 俺は仰々しく一礼すると、現場へと向かった。



 で、場面はまた砂浜に戻る。
 遠くの方からは幾分か高めの声が重なり合いながら聞こえてきた。協力者連中のお出ましか。ま、せいぜい頑張ろうぜ。お互いにな。
 俺は出張る時に渡されたターゲットのデータに視線を落とした。
「……浦島太郎ねぇ……。今度は何百年、あの女のオモチャにされるのやら…………」
 健闘を祈るぜ、と小さく付け加え、俺は最も高く昇った太陽を見つめていた。

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