ショートショートバトル 5KBのゴングショー第1戦勝者

巡る季節の鬼ごっこ

Stia

「お姉ちゃん。どうしてお空を飛んでるの?」
 間延びした少年の声に、女性はびくりと肩を震わせた。
「ボク。どうして私が見えるの? 妖精は人には見えないものなのよ」
 少しうろたえた様子で、女性は抑えた声を出す。
「でも、見えるよ。ねぇねぇ、どうして見えないの?」
 それに比べ、少年の高い声はいやに大きく辺りに響いた。女性が神経質そうにキョロキョロと周りに目をやる。そして少年の前に降り立って、また小声で囁いた。
「あのね、私は秋の妖精なの。本当はまだ夏なんだけど、間違えて来ちゃったのよ。だから夏兄さんに見つかると怒られるから、隠れてないといけないの。お願いだから静かにしててね」
「へえ。秋の妖精なんだあ。そおかあ。だからこの頃、涼しくなってきたんだね」
 少年は秋の妖精の言葉も気にせずに、相変わらずの高い声を出した。声がキンキン響いていく。
 すると……
「こら、秋。なんでお前がここにいる!」
 怒鳴り声と共に、どこからか背の高い青年が現れた。
「夏兄さん!」
 秋の妖精の顔色がさっと変わった。同時に「ごめんなさーい」と言い残し、空へと飛び上がる。
「待て、秋」
 森へと入り込んだ秋の妖精を追い、夏の妖精も空へと浮かび上がった。
「ごめんなさいってば。許してよ。兄さん」
「うるさい。お前は毎年、早かったり遅かったりと、いいかげんじゃないか。今日こそはたっぷりと文句を言わせてもらう」
 二人は叫びながら、木々の間を飛び回る。目まぐるしい追いかけっこが続いたが、秋の妖精はどうにか兄を撒くことが出来た。
「全く……夏兄さんは口うるさいんだから……」
 息を切らせて、一本の木に寄り掛かる。深く安堵の息をつくと、
「お姉ちゃん、見いつけた」
 心臓が跳ね上がった。振り向くと、目の前にさっきの少年がいた。
「いつの間に……。どうして、ここが分かったの?」
「ここだけ森が紅葉していたから、お姉ちゃんを見つけたんだ。でも心配しなくても大丈夫だよ。夏は森が紅葉してても、それが秋のお姉ちゃんのせいだなんて分からないから」
 にっこりと、少年が先ほどと同じ高い声で言った。秋の妖精は、その声が森中に響いていることだけは確信していた。

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