★月の裏で会いましょう★(4/4)

「アッコ、その人とはそれっきり」
「そう」
「もったいな〜い」
ヒロミは結局ほとんど食べていなかった。食べないのなら頼まなければいいのに。そっちの方がよっぽどもったいない。
「今日、この後エイジに呼ばれてるの。話があるって」
「仲直りするの」
ナオミはまたまた興味津々という目で言った。
「多分」
彼との出来事でエイジとはおあいこ。それに彼は素敵すぎて私には不釣り合いだもの。

待ち合わせのホテルのロビーに行くとエイジはもう来ていた。
「早いのね。いつも遅れてくる人が」
私は雰囲気をほぐすつもりで言った。
でもエイジは眉を寄せて口をへの字に歪めていた。なんだか変。
「アッコ、ゴメン」
「え?」
「俺、お前とはもう付き合えない」
予想もしない言葉に何が起こったのか分からなくなった。
その時、エイジの後ろの柱の陰からミドリが出てきた。そして彼女はエイジの側に黙って立った。
「ミドリ……。そう言うことなの」
私はその場から逃げ出すように走り去った。

今夜は満月。
月明かりに照らされた電話ボックスの中。
私はあの時彼からもらった電話番号が書かれた紙をバッグから取り出した。あの日から電話をかけようと思ったのは今日が初めて。電話してももう相手にされないのじゃないかと思っていたから。でも今日はそれでもかまわないと思う。満月が私に勇気を与えてくれたから。
呼び出し音が三回鳴って彼が出た。
「イサムさん?」
「アツコちゃんか。どうかした?」
彼の声は迷惑そうじゃなかった。
「月の裏で会いましょう」
この一言だけ通じればいいと私は思った。


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