★私立探偵鮫島吾郎★(2/2)

次の牛丼屋にはトイレがなかった。次のコンビニのトイレは使用中だった。その次のスーパーマーケットのトイレは改装中だった。
トイレが改装中で使えないって一体どういう事だぁぁぁ。
鮫島は持って行き場のない憤りと便意にもんどり打った。
遂にたどり着いたオアシス。それは町はずれの公園の公衆便所だった。
清掃中でもなく改装中でもなく空いていたが、汚さが半端じゃなかった。バキュームカーがバナナの皮一〇〇枚の上で滑って横転し、タンクから汚物があふれ出た現場のような汚さだった。鮫島は使う人間のモラルの低さに怒りすら覚えた。しかし今はそんなことをいってる場合ではない。緊急事態なのだ。
細心の注意を払って鮫島は用を足した。
長きの苦しみから開放された鮫島はひどい悪臭にもかかわらず至福の瞬間を感じていた。
最近数年間で一番のピンチは脱した。しかし鮫島は尾行に失敗してしまった。このままでは山源の社長にどんな風に罵倒されるか分からないが、まぁあの女はこの一週間の間にまた尻尾を出すはずだ。そこを押さえれば問題なしだ。結果オーライが鮫島の人生訓だった。
信じ難き汚さの公衆便所から何事もなかったように出た鮫島は、公園のベンチに座ってピースを一本取り出して吸った。安息の一時だ。
「おいみんな来いよ。このオッサンウンコ臭せぇぞ」
いつの間にか唾棄すべきガキどもが蟻のように集まってきていた。ふと見ると細心の注意を払ったにもかかわらずスラックスの裾に便が付いていた。
ガキどもは口々に「ウンコ、ウンコ」とさえずっている。
鮫島はホープでもたらされた安息を壊されたことに憤慨し怒鳴った。
「クソガキども、ウンコの一つや二つ付いてたって何が悪い。貴様らみたいなおむつが何年か前に取れたようなクソガキにごちゃごちゃ言われる筋合いじゃねぇ。開いた口がふさがらないようにしてやろうか」
懐からモデルガンのコルトガバメントを取り出して一番近くにいたガキの口に銃口をつっこむ。騒いでいたガキどもは一瞬にして沈黙し逃げ出した。
ふ、ガキには甘い顔をしては絶対にいけない。奴らには大人に対する恐怖を叩き込まねばならないのだ。
新たなホープを吸っているとまた腹の調子が悪くなってきた。鮫島はまたあの惨状の中に不本意にも入り込むことになった。
今度こそOKだと思いながらトイレを出るとイカツイ連中が鮫島を待っていた。
「うちの息子を手荒に扱ってくれたそうだな。礼をたっぷりさせてもらうぜ」
問答無用のボディブロウを何発か食らった時、鮫島はまた強烈な便意を感じた。こいつらに殴られながら失禁なんて、もうこの裏世界ではこれ以上ないくらいの笑いものになるだろう。脱糞すれば殴り殺されることはないだろう。だが、それは私立探偵鮫島吾郎の死を意味していた。
鈍痛とぎゅるぎゅるぎゅるという便意と闘いながら、いつになったらこのゴロツキどもの気が晴れて解放されるのだろうかと必死な思いで耐えている鮫島だった。あと四,五発食らったら脱糞するだろう。もう九割方私立探偵鮫島吾郎は死んだも同然だった。果たして鮫島は漏らさずにこの危機を乗り越えらるだろうか?


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