★着メロ★(4/4)

何事もなかったように良明の毎日は過ぎていった。
部内の会議の時、あの着メロが鳴った。
「おいおい、会議の時ぐらいきっとけよ」
「まぁ一段落したところだから別にいいじゃないか」
同僚や上司が口々に言う中、良明は少し青い顔で携帯をとりだし液晶画面を見た。そこには紛れもなく愛里の携帯からの電話であること示していた。
「ちょっと失礼します」
そう言って良明は席を立った。
「ちょっとだけにしてくれよ」
「かわいい彼女だからって、あんまり見せつけるみたいなことしないでくれよなぁ」
皆のそう言う声を背にうけながら良明は会議室を後にした。トイレに駆け込むと良明は電話に出た。
「誰だ?」
しかし答えはない。
「誰なんだ、一体? こんな悪戯しやがるのは」
「……愛里よ。良明、愛里の声忘れたの?」
良明は携帯電話を投げ捨てた。死んだはずじゃなかったのか。確かにこの手であの沼に沈めてきたのに……。
通話は切れたようだった。良明は携帯をつまみ上げるとEverythingの着メロファイルと愛里のダイアルメモリを消去した。そして携帯の電源を切った。
良明が会議室に戻ると皆がいつものように冷やかした。良明は少し引きつった笑い顔でそれにこたえた。
「じゃあ次の議題に移るとするか」
部長がそう言ったとき、またあの着メロが流れ出した。皆の目が良明に注がれる。電源を切ったはずなのにどうしてと思いながら良明が携帯を取り出すと、液晶画面が真っ黒になっていた。そしてそこに赤い文字が一文字ずつ表示されていく。

良明、ここは寒いわ。愛里を暖かいところに連れ戻して

その間にもEverythingは流れ続ける。良明は携帯を床に叩き付けた。電池カバーが外れてバッテリーが飛び出した。それでもEverythingは流れ続ける。良明は必死の形相で携帯を何度も何度も踏みつぶした。何度目か足を踏み下ろすとやっとあの着メロは鳴りやんだ。良明の様子と携帯の異常な有様に会議室の人間は金縛りにあったようになっていた。
その時、またあの着メロが鳴りだした。まず部長の胸ポケットから。次に次長の、そして次は課長と全員の携帯電話からEverythingが流れ出した。皆、気味悪がって携帯を投げ捨てた。
投げ捨てられた携帯電話はしばらく鳴っていたかと思うと急に静かになった。そしてすべての携帯から一斉に愛里の声が聞こえてきた。
『良明……、ここは寒いわ。愛里を……暖かいところに……連れ……戻して』 


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