★着メロ★(1/4)

昼下がりの、少し緊張感に欠ける事務所の中に、MISIAのEverythingの着メロが鳴り響いた。
「お、中山、また例の彼女か」
「熱いねぇ」
上司や同僚の冷やかす声に少し焦りながら、中山良明は携帯を取り出すと事務所の出口に向かった。またマナーモードにしておくのを忘れてしまったことを悔やみながら中山が電話に出ると、愛里の不機嫌な声が聞こえてきた。
「遅い〜。すぐ出てよ」
「そんなこと言ったって、仕事中なんだからさ……」
中山の声は小声になる。
「良明、……愛里のこと嫌いになっちゃったの?」
「そんなんじゃないよ」
「じゃあどんな時もEverythingが流れたらすぐに出て」
「分かったよ。ところで何の用なんだ?」
「良明の声が聞きたかったの」
「声って、昨日も会ったじゃないか」
「だってそれからもう十二時間も経ってるじゃない」
良明は絶句した。最初は、犬のように常にじゃれついてくる愛里を可愛い奴と思ったりしたが、今ではもううんざりだ。

つきあい始めて間もなく、愛里から良明の携帯にメールが届いた。着メロの添付ファイルがついていて、メールには「愛里の大好きな曲なの。愛理からのコールの着信音に設定してね」とあった。良明はいわれるままに着メロを設定した。
その翌日、仕事中にいきなり鳴り出したEverythingに良明は慌てふためいた。今まではこの時間帯には仕事関係の電話しかかかってこなかったので、着信音は標準の素っ気ない電子音だった。それがチャラララ〜チャラララ〜と鳴り出したのだから良明も周りも驚いた。廊下で電話に出ると愛里が「声を聞きたかったの」と言った。仕事中にかけてくるのはちょっと困った物だなと思いながらも、良明はそんな愛里の愛情表現を嬉しく思った。
そして度々愛里からそういう電話があったので、飲み会で上司から誰からなのかと聞かれてしまった。良明は正直に彼女からの電話であることを明かした。その後は良明と愛里のことをつまみにされてしまったが、良明はそれ程イヤな気分ではなかった。愛里の写真を見せたときに一同が見せた羨望の眼差しに、少なからず優越感を覚えたからかもしれない。

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