★愛のかに玉★(2/2)

「遅い、遅すぎる」
六時のニュースが始まっても洋司は帰ってこなかった。中華スープに、サラダ、ご飯も炊けてるし、もうかに玉以外は全部出来ていた。
どこかで寄り道食ってるに違いない。多分本屋で立ち読みでもしてるのだろう。ちょっと探しに行くかと私がTVを消して立ち上がった時、アパートのドアが開いた。
「遅くなってごめん」
「遅いなんてもんじゃないわよ。一体何……」
と、振り向いた私の目に映ったのは大きな紙袋を抱えた洋司だった。
「何それ? まさかお金全部使ってきちゃったんじゃないでしょうね。あれは今度のお給料まで持たせなきゃいけないものだったのよ。なかったらまたキャッシングしなきゃいけないじゃない……」
怒りが後から後からふつふつと湧き起こり、私は洋司にそれを全部ぶつけた。次から次へと日ごろのうっぷんまで。こういう時の常で、洋司は私の言葉を黙って受け入れた。案外、彼のこういうところが二人の仲が長続きしている理由なのかもしれない。
「終わった?」
神妙な顔して洋司は私に訊いた。
「まぁね」
私も言い過ぎたかなと思いながら応える。
「これさ、パチンコの戦利品なんだ。おっと、ちゃんと勝ったんだから小言はもうなしだぜ。軍資金は一円だって減ってないんだからさ」
そう言って洋司は袋の中から一つ缶詰を取り出した。
紺色に赤いズワイガニが映えるラベルの貼ってある缶詰だった。
「これカニ缶じゃないの」
「そうカニ缶。沢山あるからさ贅沢に使おうぜ」
「永谷園のは?」
「カニ以外の材料はそれで間に合わせようよ。あれカニって言ってもほとんど入ってないからさ。これ入れればちゃんとしたものになるさ」
調子いいヤツと思いながらも私はかに玉を作るために流しに向かった。


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