★レストラン暗黒亭★(2/2)

お店は北野坂の洋館の一つで看板も出ていない。
絵里が呼び鈴を鳴らすと中から上品な白髪の女性が出迎えた。建物にあったドレスを着ていて正に女主人という感じだ。
応接間に通されてしばらく待っていると、女主人がポットとカップとクッキーの盛られた皿を持ってあらわれた。テーブルの中央にはクッキーの皿が置かれ、私たちには紅茶が振る舞われた。今までかいだことのない様な甘く深い香りの紅茶だった。
紅茶を二口ぐらい飲んだところで私の意識はなくなった。
目を覚ますと薄暗い部屋の中だった。明かりはテーブルの上の燭台だけのようだ。向かいに座る絵里はナイフとフォークを使って何かを美味しそうに食べている。でも何故か身体の自由がきかないのでそれ以上のことは分からない。
絵里の背後で炎が上がった。見ると調理台がありシェフが炎を操って何か料理を作っている。
「絵里、何を食べてるの? 私にも食べさせてよ」
私がそう言うと、女主人が横からフォークに刺さった肉のようなものを一口私に食べさせてくれた。
神戸牛かしら? でももっと複雑な深い味わいがする。とにかく文句なしに美味しい。
「お願いです。私にももっと食べさせてください」
私が懇願すると女主人は優しい穏やかな声で
「あと少しで残りも完成するから待って」
とささやいた。
そして絵里の後方、調理台の隣の扉が開いて首のないマネキンが運び込まれた。なんでマネキン、それも首なしなんだろうと思っていると、私の椅子が斜め後ろに大きくひかれた。
マネキンが近づいてくるのと入れ違いに自分の足下から持っていかれるものがあった。それは人間の足だった。ギャルソンがそれを調理台に持っていく。
「準備完了」
別のギャルソンがそう言って私の頭を持ち上げてマネキンの上に載せる。
何がなんだか分からない私に女主人が再びささやく。
「まだ身体がなじまないと思うから食べさせてあげる」
彼女が食べさせてくれた肉はこの世の物とは思えない美味しさ。
「久しぶりだけどやっぱりとっても美味しい」
そう言って絵里は新たな一口にぱくついた。
「あなたもまた食べたくなったら、美味しいものをいっぱい味わったお友達を連れていらっしゃい」
女主人はそう言うと上品に笑った。


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